経済の読みもの

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【図解】知らないと損する投資の基礎。”安全だから円が買われる”はウソ!!3分でわかる”今なぜ円高なのか?”

米国の金融危機、欧州の経済危機、チャイナショックなど、投資家心理が悪化するイベントが発生すると、

  • 投資家心理が悪化し、
  • 海外株式や新興国通貨などのリスクの高い資産が売られ、
  • 相対的に安全資産とされる円が買われる

という説がよく使われます。 ただ、このメカニズムは本当に正しいのでしょうか。膨大な財政赤字を抱え、少子高齢化が進み、経済が停滞し、北朝鮮・中国・韓国など歴史的に地政学リスクも抱える日本について、本当に安全だと思えるのでしょうか。それこそ本当に安全を期するのであれば、世界の基軸通貨である米ドルの方が信用は高いと言えるのではないでしょうか。  

1. ”安全な通貨として円が買われる”という論は正しくない

そもそも、何かのイベントが発生し、投資家心理が悪化した際に必ず円が買われるわけではありません。それこそ、イベントが発生すれば各人がそれぞれの思惑でトレードを試みることになるはずである。ただ、その中でも直近10~15年ほどは円が買われるボリュームが大きく、円高に振れやすかったため、それがトレンドとして定着したにすぎません。 ではなぜリスクオフ時に円買いのボリュームが大きくなるのでしょうか。これは、逆のリスクオンの時にどのような投資が行われてきたのかを考えると理解できます。  

2. 「日本人が海外投資を行う際、円を売る ⇒ 有事の際、海外投資を手仕舞い、円に戻す」という流れが起きる

景気が停滞しデフレが続いていた日本では、金利が低く抑えられていたので、高利回りを求めて円を売り、高金利通貨を買ったり、海外資産(株式や債券)に投資したりという海外投資が加速しました。それがリスクオフに転じると、手元の流動性を確保したり、リスクの高い投資を手仕舞ったりして、円に回帰して円が買われることになります。これは円が安全だから、というよりも、ただ手仕舞いをするという意味合いが強いものになります。 ただ、これよりも影響が大きいのが下記の3と4です。  

3. 円キャリートレードが解消される(金利の安い円で借金し、円を売って外貨に換え、海外投資をする ⇒ 有事の際、海外投資を手仕舞い、円に戻す)

2000年代、リーマンショック前後までは、外国人投資家を中心に円キャリートレードという取引が盛んでした。これは、低金利の円で借金し、円を売って海外通貨に転換し、海外投資を行うという手法です。円キャリートレードが増加すると円がそれだけ売られるため、円安となります。それが、リスクオフの局面になると、低金利の円を買い戻し、円建ての借金を返済する流れが加速するので、円高圧力が働くことになります。  

 

 

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現在は欧州も米国も金利が低く、日本との金利差が以前ほどないため、一時期よりも円キャリートレードのボリュームは減少しています。  

4. ヘッジ付き日本株投資が解消される(日本株投資の際に為替ヘッジを行う ⇒ 有事の際、ヘッジ解消により円が買われる)

かつては外国人が日本株を買うというのは、同時に日本円を買うという行為でもあったので、円高要因として認識されていました。しかしこの10年、とくにリーマンショック後、アベノミクス相場において、世の中は大きく変わりました。

例えば米国のA氏が日本株式に投資するとします。A氏は1ドル100円の際に、1万ドルを売って100万円を買い、日本の株式を買います。日本に投資し、+50%のリターンが出たとします。一方、為替レートも1ドル150円になってしまったとします。そうすると、150万円の利益が出たのに、為替でリターンが相殺されてしまいます。  

 

ヘッジなし 

為替変動による影響を避けるために生まれた日本投資が、ヘッジ付き、という手法です。これは、日本株投資を行うならば、あらかじめ同金額の日本円をドルに換える契約を締結しておき、為替リスクをゼロにする、という仕組みです。

さらにこれが進化して今ではヘッジ付き日本株ETFという上場投信の形で、個人投資家から機関投資家まで、広くあまねくこの仕組みで為替リスクを取らない日本株投資が可能となっています。

さて、これがなぜ為替レートに影響を与えるのか、例を挙げて説明します。最初にまず時価総額100億円の日本株を1ドル100円でヘッジ付き投資したとします。そうすると最初の投資は以下となります。

A)1億ドル→100円で円に交換→100億円→100億円相当の日本株投資

これをヘッジするために、以下の取引を行います。

B) 100億円→1ヶ月後に100円でドルに交換する契約を締結→100億円の円売り予約・1億ドルのドル買い予約

このAとBが混ざって出来るのがヘッジ付き日本株投資となります。しかし日本株の価格は日々変動します。例えば100億が120億に増えたとします。すると20億円分の円売り予約・ドル買い予約が足りなくなります。そこで追加のドル買い円売り予約が必要となります。こうして為替市場ではドル買い需要が生まれ円安が進むことになります。

反対に、100億の日本株が80億に減ったとします。そうすると締結していた100億円相当の円売り予約は20億円分多すぎることになります。その結果、余ってしまった20億円分相当のドルを売り、円を買わなければなりません。これが追加のドル売り円買い予約となり、為替市場ではドル売り需要が生まれ円高が起きることになります。  

 

ヘッジあり

 

こうしてヘッジ付き日本株投資が広がるにつれ、日本株の上昇 → 円安ドル高、日本株の下落 → 円高ドル安、という現象が頻発するようになります。 東証の売買高に占める外国人投資家比率が50%を超えるなど、外国人投資家のボリュームは非常に大きくなっています。そのことを鑑みると、この仕組みの影響が大きいことはお分かりいただけるのではないでしょうか。

このように、円が買われる、円が売られるということには、それ相応の理由があります。 今後、”相対的に安全資産とされる円が買われる”という話を聞いた場合は、その背景をしっかりと考え、うまくトレードに活かすことが大切です。