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【図解】”5兆円の損”よりも高リスク運用を心配すべき!カンタンに年金運用の問題を理解する~GPIFとは何か~

GPIFという言葉を聞いたことがあるでしょうか?私たち国民の大切な資産である厚生年金保険や国民年金などを運用している世界最大規模の機関投資家です(正式名称を「年金積立金管理運用独立行政法人」と言います)。

運用している金額はおよそ134兆円にも上ります。 7月末にGPIFの2015年の運用成績が開示され、2015年度決算で約5兆円の運用損失を計上したと報道されています。「5兆円も損したなんて、年金はきちんと守られているの!?」と疑問に思う方もいるかもしれませんので、詳しく説明していきます。  

1.GPIFとは、年金の財源を管理・運用する機関

GPIF(Government Pension Investment Fund: 年金積立金管理運用独立行政法人)は、将来みなさんに支払うために積み立てられた年金基金を元手として投資運用を行っています。運用がうまくいけば年金の財源が増えることになり、失敗すれば年金の財源が減ることになります。 年金は、現役世代から高齢者世代へ”仕送り”するという「世代間扶養」の制度となっています。しかし、急激な少子高齢化が進むと、保険料収入は減少し、年金支払いは増える一方で、このままでは年金が破綻するとまで言われています。

年金の財源は次の3つです。

  • 保険料(国民年金、厚生年金など)
  • 税金
  • 年金積立金の取り崩しと運用益

年金積立金とは、将来も一定の財源を確保するために、保険料の一部を支払いに回さずに積み立てたもので、GPIFが運用をしています。今の日本の公的年金制度では、みなさんからの保険料と税金だけでは支給すべき年金が賄えなくなってしまったので、2009年度以降、この積立金を取り崩して補填しています。この積立金は、毎年、数兆円単位で取り崩されており、いずれ底をつくと言われています。 ですので、運用の成果もそうですが、まずはそれほど年金が危機的状況にあるということを認識することが大切かもしれません。  

2.運用が始まって、年金の財源は45兆円も増えた

GPIFの2015年の運用成績が開示され、2015年度決算でGPIFは約5兆円の運用損が出ていることが報道されました。 しかし、よく考えてみれば、130兆円以上を運用していれば、5兆円程度の増減は十分に起こり得る話です。また、投資は損するときもあれば得をする時もあります。参考までに、過去数年間の運用成績を見てみましょう。平成26年度、つまり一昨年度の収益はプラス15兆円以上です。まだ、それ以前の運用についても、プラスの年もあればマイナスの年もありますが、直近10年はトータルでプラスの収益となっています。さらに、運用を開始してから累積で45兆円の収益を出しています

 

毎年の収益

※ GPIFウェブサイトより

 

当たり前といえば当たり前ですが、大きな損失額だけに注目するのではなくトータルで儲かっているのか、損しているのか?という状況判断をするのは投資をする上でも常に重要な考え方です。人間はどうしても損をした時の印象が得をした時のそれよりも印象が強く、過度にマイナスに捉えがちです。

5兆円というと非常に大きな金額で、これだけを見ると「けしからん」と思うかもしれません。もちろん5兆円という金額は大きな額で、損失がないことに越したことはないのですが、今まで累積で大きな収益があること、投資は100%勝てるわけではないこと、投資は長期で見るものであることなどを考えると、「5兆円の損失」だけを取り上げて批判することは少し的外れかもしれません。

GPIF - 運用成績 ※ GPIFウェブサイトより  

 

3.年金を増やし、GPIFがリスクを増やし、株式への投資を倍増した

年金問題が叫ばれる中、支給開始の年齢引き上げなど、なかなか改革は進んでいません。年金の制度改革が遅々として進まない中、年金財政の安定化のために、現在は運用改革に頼らざるを得ないというのが実情かもしれません。そのせいか、GPIFはよりハイリスク・ハイリターンの資産運用にシフトし始めています。  

①. リターンを出すために、リスクを取るように改革された

GPIFは国民の大切な資産を運用しています。そのため、これまでは安定運用を最優先に心掛けてきました。しかし(当たり前ですが)低リスク低リターンの安全資産だけでは、年金の財源に補填するために十分な収益が確保できないため、よりリスクを取った運用をすることになりました。これがGPIFの改革と呼ばれます(2014年)

参考: 「年金積立金管理運用独立行政法人 中期計画の変更について」

 

GPIFはそれまで資産の12%ずつをそれぞれ日本の株式と海外の株式に投資していましたが、この改革を経て、日本株式に資産の25%、海外株式に同じく25%を投資することになりました。いずれも倍増です。401Kなどで投資をされたことがある方はお分かりかもしれませんが、資産の50%も株式に投資するというのは、なかなかリスクのある投資スタイルといえます。

 

ポートフォリオ

※ GPIFの資産配分(GPIFウェブサイトより)

 

 

仮に100兆円あり、25%を株式に振り分けたとします。そうすると、株式への投資割合は25%です。ところが、株式が値下がりし、5兆円マイナスで20兆円になってしまったら、20兆円÷95兆円≒21%となります。すると、GPIFは目標の25%に近づけるために、さらに株式を買い増すことを検討することになります。この場合、下落した株式を買い増すことが果たして正しいのか、難しい決断を迫られることになるでしょう。

もちろん現実はそこまで単純ではありませんが、パーセンテージを目標として開示している以上、あまり大きな資産の調整ができない中、リスクを取ってリターンを出さなければならないという厳しい条件で運用されているわけです。  

②. 金融緩和が続き、金利が大幅に低下してリターンを出しにくくなった

日本の景気回復のため、日本銀行は金融緩和を続けています。金融緩和とは、簡単に言えば”世の中にお金をたくさん流通させる”ことで、景気を良くしようとすることです。

 

 

金融緩和によって、金利が大幅に低下し、比較的ローリスクな国債など債券に投資をしてもリターンがあまり得られなくなってしまいました。そのため、GPIFが株式などのリスク資産に投資せざるを得なくなっています。 GPIFは年金を運用しているので、着実に収益を稼ぐ運用が不可欠になります。

ところが、抜本的な年金改革が行われないままであれば、GPIFの運用は「着実」から「ハイリスク・ハイリターン」へと加速してしまうかもしれません。そもそも、GPIFが運用して稼いだ利益だけで年金を賄うということは非常に難しいことです。

このように、GPIFが5兆円のマイナスを出したということよりも、GPIFがよりリスクを取った運用を行っていること、そうせざるを得ないほど年金が不安な状態であることこそ、理解しておく必要があるのではないでしょうか。

インターネットで簡単にアクセスできますので、大きなニュースが出た時には、より長期の視点で、元のデータを見れば、また新聞やテレビなどのメディアとは違った事実が見えてくるかもしれません。 年金の運用の成績表は1年に4回、独立行政法人年金積立金管理運用機構のウェブサイトで知ることができます。